農業生態系(井上吉雄)

 焼畑農業はインドシナ半島からインドにまたがる山岳地帯(ベトナム・ラオス・中国・ミャンマー・バングラデシュ・インド)では,重要な食糧生産システムとして長い歴史をもつ持続的な伝統農法であった。しかし,過去半世紀程の間に,人口増加と土地利用規制にともなって,焼畑面積の拡大と休閑期間の短縮化が進んできた。

 これに伴って,主要作物であるイネの収量低下や雑草害の増加などの傾向が認められており,土地生産性ならびに労働生産性のいずれにおいても多大な影響がでてきている。さらに,土壌侵食や生物資源(非木材林産物や在来作物品種)の損耗,水資源涵養機能の低下,CO2の放出など,地域環境・地球環境への悪影響も懸念されている。したがって,食糧の生産性と生物資源の持続性・環境負荷の低減化を両立させるための代替的な土地利用ならびに生態系管理シナリオを策定することが重要な課題となっている。

 しかし,対象となる山岳焼畑地帯は地勢的に急傾斜かつ交通インフラが乏しいためアクセスが容易でなく,また,土地利用や森林資源・炭素動態の変化に関する信頼性の高い定量的データ,特に空間的なデータや情報は極めて乏しい。

 そこで、リモートセンシング・GISを用いてまず広域的な土地利用と植被動態の解明を進めた。つぎに,それによって得られる空間情報を土壌・バイオマス等の現地調査データと統合するアプローチにより,土地利用・生態系炭素動態の長期的・広域的変化を定量評価した。さらに,それらに基づいて,地域スケールの生態系管理シナリオにおける炭素固定ポテンシャルならびに総合的な食糧生産性を比較分析する試みを行った。